思うこと     



1999年3月25日(木) くもり

部下のスギモト君が今月いっぱいで会社を去る。田舎に帰って家業を継ぐのだそうだ。

3年間一緒に働いた仲間が会社を去るというのはすごく寂しいことで(彼が入社するのと僕が日記を書き始めるのがほぼ同時期だからよけいに印象深い)、しばらく感傷に浸って生きていたいような気もするのだが、現実の世界はなかなかそう甘くはできていない。

というわけで、スギモト君の後任を募集しているのだが、これがなかなかうまくいかない。

僕の仕事は英語が出来ることが必須なのだが、だからと言って仕事ではほとんど英語を使うことはない。実際の翻訳は翻訳者がやるし、品質のチェックは品管の人がやればいいことだから、ごく普通に仕事をしていると、英語でメイルをちょろっと書いたり、ちょろっと英語で見積を作ったりするぐらいで、専門的に英語を勉強した人が腕を振るうほどのことは何もない。

だがしかし、英語力はやっぱり必要で、それはお客さんとの会話の中で必要になってくる。

「これって●●って単語でもいいんですかね?」などとお客さんに尋ねられた時、「あ、すんません、僕英語全然ダメなんですよ、わはは」というのではちょっとキツイ。せめて、「いや、僕は▲▲の方がこの場合いいような気がするんですが、でも念のため品質管理の人間に確認しますね」ぐらいは言って欲しい。お客さんは、翻訳会社の人間なんだから英語が出来て当然という目でこちらを見ているから、その期待を裏切ってはいけない。

だから、日常的にはほとんど英語は使わないけど、英語が出来ないとお客さんのハートを掴めないという、ちょいと難儀なポジションである。

もう一つ言うと、翻訳会社の営業は、コンピュータについてある程度の知識がないとキツイ。今更手書きで原稿用紙なんてのはないわけで、全ての仕事がデータでやりとりされるから、納品形態についてお客さんが求める以上の知識を持っていないと安心してもらえない。

単なるテキストファイルであれば何も問題はないのだが、そこにDTPが絡んでくると、ちょっとややこしくなる。やれ解像度だのやれPostscriptだのやれATMだの相互参照だのHTMLだの索引生成だのと、本当にキリがない。実際に作業をやる訳じゃないから(あまり突っ込んで知っていると手伝わされる羽目になって損だ!)、どっぷりと浸るほどの知識は必要ないのかも知れないが、少なくともお客さんが出してくるリクエストの意味がわからなければ、制作に仕事を渡すことができないわけで、これでは事実上営業として機能しない。

翻訳会社が翻訳者やコーディネータの募集をかけると、どっと堰を切ったように応募者が殺到するのだが、営業の募集をかけてもなかなか応募者がいない。そりゃそうだ。英語がある程度のレベルで出来て、コンピュータが使いこなせるのならば、何もこんな零細の翻訳会社でそれもわざわざ営業なんかやらなくたっていいのだ。大手の会社にだって入れるだろうし、翻訳会社に入るにしたってコーディネータになれる。失業して右往左往することもないだろう。

そんな特殊な環境にあるという事情もあって、営業を探す時は、ある程度の妥協が必要になる。英語力がない人間を目をつぶって採用するか、営業力のない(コーディネータ志望とかの人間を)人間を目をつぶって採用するか。

でもこれが、本当にどっちの目をつぶっても、なかなかうまく行かない。何よりもキツイところは、働いている本人達が楽しく働けないということかな。英語力のない人間をムリヤリ据えると当然すぐ壁にぶつかるし、みんなが当然のようにしている会話に一人だけついていけない状態になってしまうから、劣等感が生まれてしまう。

営業に向いてない人を営業にすると、もともと好きな仕事じゃないうえに英語を使う機会もないから、すぐ嫌気がさして辞めてしまう。

ましてや零細企業だから、給料は安い。福利厚生はないに等しい。残業もつかないし、休日手当もない。

こんな条件だから、なかなか「おっ」という人は応募してこない。残念だ。

スギモト君が会社に来るのは、来週の水曜日まで。今のところ、後任は決まっていない。そうすると、営業は僕一人に。。。。

ああ、想像すると恐ろしいのでこのへんで止めておこう。

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今書いてて思ったんだけど、じゃあ、僕はどうして翻訳会社で営業なんかやってるんだろう、という疑問がふと。

ちょっと考える。いや、考えるまでもない。答えは、楽しいから。結構いまの仕事気に入っているんだよね。後は社長の人柄に惚れてるからってことかな。うん。

まあ僕の場合、大きな夢があるわけだから、それが叶うまでは今の会社のために一生懸命働きましょうってところもある。今まで随分世話になってきたし。そんな感じ。

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京極夏彦、「塗仏の宴 宴の始末」読了。

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