思うこと


1999年8月16日(月) くもり のち 雨

南の島旅行記、今日で第四回(旅行は三日目)。前の回は、このページの一番下の←から戻ってください(手抜き)。

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今日も7時過ぎに電話で起こされる。寝ぼけたまま朝食を頂くというこの図式も、徐々に定番化しつつある。

居間には我々と、宿経営陣の皆さま。仏壇のすぐ脇には、何やら大掛かりな木製の船の模型が置かれている。あれは何だろうと思いつつ食事をしていると、若女将がすかさず説明してくれた。精霊流しだそうだ。この辺では、16日の朝に、宿のすぐ脇を流れる永田川に、食べ物やお酒を積んだ船を流すのだそうだ。なるほど。

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どうでもいいが(本当は全然どうでもよくないが)今日も雨である。そろそろ休養も十分になってきた我々としては、一刻も早く浜に飛び出したくて仕方がないのだが、某飛び魚漁師さんの日記を読んでもらえば分かるとおり(リンク張れよちゃんと)、今日も肌寒いぐらいで、とても海に入るという感じではない。宿の外はすぐに白い砂のビーチが1キロ以上続いているというのに泳げないとは。くぅ。

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嘆いていても仕方がないので、今日は一日観光をすることに。

永田牧旅館を出て、いつもとは逆に、西に車を向かわせる。

10分も走ると、外周道路はどんどん細く険しくなり、幹線道路とは死んでも言えないような状況になる。すると間もなく、屋久島灯台の文字が。標識に引き寄せられ、ふらふらと枝道に入っていく。すぐに車一台がやっと通れるぐらいの細い道になってしまうが、構わず進んでいくと2分ほどで灯台の入口に到着。

屋久島灯台は、白くてすべすべしてて、思ったよりもずっとキレイに管理されている灯台だった。ぞっとするほどの断崖絶壁に、曇り空なのに深く蒼い海、海沿いなのに全然磯の香りなんかしない海に、時折降る叩き付けるような雨。何となく、世界の終りみたいな雰囲気もして、悪くない。

我々が着いた時には灯台には誰もいなかったのだが、まるで我々の後を尾行でもしてきたかのように、すぐ後からレンタカーの観光客が来るわ来るわ、アッという間に灯台の前の狭いスペースに車が5台。屋久島の交通事情を考えると、僕達が到着してから5分間で車が5台というのは、ハッキリ言って異常事態。東京で言うなら、何年か前のスキーシーズンにあった関越道渋滞100キロみたいなものだと思ってもらうと分かりやすいかと思う(ホントに分かりやすいかな)。

次々に押し寄せてきた観光客共は、何故か揃いも揃って必ず僕に向かって、すみません、シャッター押してくださいとニコニコ笑いながら僕にカメラを手渡すのだ。他にも観光客はいたのに、何故みんな僕に頼むんだ。そんなに愛想良く笑っていたはずはないのだが、わずか5分の間に3組の写真を撮ってあげるはめに(何故?)。

そして彼等は、一番最初に着いていた僕達を残して、あまりにもサッサと灯台をあとにして行ったのであった(そんなに詰まらなかったか?僕は結構ゆっくり見れて楽しかったぞ)。

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灯台をあとにし、我々の車は再び外周道路に戻る。ここから先、島の西側の集落、栗生(くりお)までは、外周道路とは言え、西部林道と呼ばれ、外周道路自体も国立公園内に入ってしまうという状態。車一台がやっと通れる程度の路幅には、ずっと覆いかぶさるような木々、道の山側は常に断崖絶壁で、曲がり角のたびに小さな滝が。東京では想像もできないほどのバカデカイ羊歯の葉が垂れ下がり、見たことがない原色の蝶がヒラヒラと飛んでいる。

細いカーブをほとんど止まりそうなスピードで曲がり終えると、ジャングルみたいな木々に覆われた前方の車道を、何やら大きな動物が横切った。驚いて目を凝らすと、何と野生の子鹿だった。子鹿は道路の左側の森から現れ、ピョコンと道路を跳ねるように横切り、右側の、切り立った森の中へと飛び込んでいった。僕が車のエンジンを切り、じっと見つめていると、子鹿の方も我々の方をくりくりした目でじっと見つめていた。

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車を走らせている間も、時折激しい雨がザーッと降ってきて、ひとしきり降り続くとぱたっと止む。屋久島は、とにかく雨が多いところだ。山間部の降雨量は、東京の倍以上になるらしい。でも日照時間は、鹿児島市の80パーセントぐらいはあるというから、きっと曇ったらすぐ雨という感じなんだと思う。雨が多いのはいいんだけど、少しは晴れろよな(本音)。

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西部林道が終わり、車線も広くなった頃、今度は路肩に発見。路肩に佇み海を眺めていた。猿だ猿だと騒いでいると、今度は猿の親子連れを発見。鹿の時と同じように車のエンジンを切ってじっと見つめると、子猿だけが何故か激しく興奮して、キーキーと鳴きながら路肩から転がり落ちて行ってしまった。ちょっと悪いことをしたような気がした。でも転がり落ちた路肩の下の茂みから、相変わらずキーキーという鳴き声が聞こえていて、ちょっとおかしかった。

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やがて我々は次の観光スポット、大川の滝(おおこのたき)に到着。この滝が凄かった。何が凄いと言って、水量の多さである。滝というよりはほとんど水害という状態で、滝壷から50メートルぐらい離れた展望台まで行ったら、5秒ぐらいで全身ずぶ濡れになってしまう。でも行かずにはいられないというのが雨に泣かされている、ふて腐れ観光客の性。というわけで、我々も歓声をあげつつ敢えてずぶ濡れになりに行く。でもこの雨のおかげで猛烈な迫力の滝が見れた。これははっきり言って華厳の滝もナイアガラも真っ青って感じ。

ちなみに滝には、さっき灯台で会った観光客が数組。なんせ道路が一本しかないのだから、行き先も限られてしまうというもの。みんな雨のせいで無理矢理観光してるんだなあ。

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大川の滝を出て、しばらく南下すると、いよいよ西の集落、栗生に到着。栗生でそろそろ昼でも、と思っていたのだが、ある程度予想していた通り、食事が出来そうな店は、とりあえず街道沿いにはない。仕方がないのでそのまま南下を続け、今度は屋久島フルーツガーデンへ。

何やらよく分からないまま入っていってみたのだが、これが思ったより面白かった。入っていくとすぐに庵があり、そこでガイドが着く(我々のガイドはじいさんだった)。で、10分ほどかけて園内を案内してくれる。コーヒー、スターフルーツ、マンゴー、パッションフルーツ(日本では時計草と呼ぶらしい)の実というのも珍しかったが、やはりヒットは竜舌蘭の木。残念ながら花は咲いてなかったのだが、なかなかの迫力だった。花が咲いているところを見てみたい。

園内を一周した後で、庵でフルーツの試食をさせてもらえる。我々が食べたのは、パッションフルーツとパパイアとタンカンの実。

庵ではコーヒーを200円で飲ませてくれていたのだが、僕は「どうせこんな胡散臭いところのコーヒーなんて美味くないだろう」とバカにして飲まなかった。でも後から考えれば、フルーツガーデンではコーヒーも栽培していて、自家製のコーヒーを淹れてくれていたんだと気づいた。ずっと旅館で日本茶ばかり飲んでいて、美味いコーヒーが飲みたくて仕方がなかったので、後からひどく後悔した。

相変わらず灯台で会った観光客にここでも会い、また写真を撮るはめに。

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フルーツガーデンを後にして、我々は島の南岸を走る。我々の宿がある北岸に較べると、浜もなく景色も単調でいまいち面白くないな、と思いつつ走っていると、左側の山の上に、やけに派手な洋館が見えてきた。「あれは一体なんだ」と僕が騒ぐと、何故かやけに冷静なニナが、「あれはきっと岩崎ホテルに違いない」と自信満々に言う。しばらく走っていると「岩崎ホテル入口」というバス停もあったりするので、きっと昼飯が食えるだろうということで、とりあえず乗り込んでみる。

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岩崎ホテルは、すごくちゃんとしたリゾートホテルだった。ベルボーイもいるしクロークもしっかりしてそうだし、コーヒーハウスはランチタイムで混雑していた。一瞬、ここが屋久島だということを忘れてしまうぐらいの、しっかりしたリゾートホテルぶり。

コーヒーハウスで昼食。僕はカレーライス、ニナはハンバーグで、二人ともしばらくご無沙汰のコーヒーも注文。

カレーの味は、まあ許してやろうのギリギリの線という感じ。コーヒーも同じ。値段も東京のホテル並で取ってるんだから(二人で5,000円とられた)、味ももうちょっと頑張って欲しいというのが正直なところ。ちょいとガッカリ。

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それでも久々のコーヒーでちょっといい気分になり、さらに南岸を進むと、今度は千尋の滝(せんひろのたき)の標識が。

標識に沿ってどんどん山道に入っていく。どんどん山道に入っていく。本当にいつまでもどんどん山道に入っていく。いい加減道を間違えたかな、というところでようやく駐車場に到着。雨が強くなってきた中を傘を差してさらにテクテクと歩くと、展望広場のはるか先1キロぐらいのところに、ドバーッとまたもや水害状態の千尋の滝が見えた。でもあまりにも距離が離れ過ぎているのと、徐々に霧が出てきてしまっていたのとで、残念ながら大川の滝ほどの迫力は感じられず、残念。

千尋の滝を出て、今来た道を戻ろうと思ったら、案の定道に迷った。いくら走っても外周道路に出ず、どんどん道は悪くなり(結構しゃれにならない)、雨もどんどん強くなる。

ああこりゃ迷ったなと思い、とりあえず海が左だから外周道路も左だろ、ということで途中他人の家に入りそうになったりもしつつどんどん悪路を走っていくと、何とか外周道路に復帰。道が少ないと、こういう時は便利。

外周道路に戻り、しばらく走り続けると、無事安房の港が見えてきた。これで屋久島外周を一周したことになる。

安房から今度は東側をどんどん北上し、宮之浦経由で無事永田に到着。まだ幾つか観光ポイントはあったのだが、いい加減車を運転しっぱなしで疲れていたので、続きはまたの機会ということにして帰ってきた。

夕食には何と、カニが丸ごと一匹出た(驚)。アサヒガニという、地元で獲れるカニだそうだ。何だか日ごとに食事が豪華になっていくような気がするのだが、女将、無理してないか?

今日もビールの後、三岳という焼酎をロックで飲む。今日から、女の子を二人連れた家族が泊まり始め、ちょっと賑やかになった。


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