あなたの温もり 思うこと 不明編
1997年10月26日(日)
Hey Lula / Yen Chang
六本木の交差点のビルの、東京タワーが良く見える気取ったお好み焼き屋に行ってきた。気取ったお好み焼き屋というのも妙だが、「高級」というのもちょっと違和感があるのでやはり「気取ったお好み焼き屋」ということになる。
どう気取っているかというと、まず従業員がみんな蝶ネクタイ姿で、店内は大きな窓に沿ったカウンターを中心に構成されており、カウンター越しに「お好み焼きクリエーター」の女性達が僕達が注文したお好み焼きを丁寧に焼いてくれるのだ。
ドリンクメニューも、カクテルやワインが中心で、客層も若いカップルが殆どという感じだ。
お好み焼きが焼き上がると、「マヨネーズとソースと青のりをおかけしてもよろしいでしょうか」と丁重に尋ねられる。確かにおいしいお好み焼きだ。やはりプロが焼くと旨いのかも知れない。
ワインリストに載っているワインも結構高級品が多い。僕はワインは赤しか呑まないのだが、その店のリストはフランスワインしかなく、カリフォルニアやイタリアの安くて軽いワインは一切なかった。ワインも美味しかった。カウンターに腰掛けてニナと二人で赤ワインを飲んでいると、とてもそこがお好み焼き屋とは思えない。シティホテルのスカイ・バーで飲んでいるような気になる。
まあ、味も雰囲気も良いのだが、でもやっぱりお好み焼きを食べてるような気がしない。元来庶民的なものを無理に高級品にしてしまっているように思えて、ちょっと落ち着かない。二人で一枚ずつお好み焼きを食べて、つまみを二品とって、ワインを一本とビールを一杯ずつ、これで軽く一万円を超えてしまうのも、ちょっと痛いかも。
僕達のお好み焼きを焼いてくれた「クリエーター」のお姉さんがキレイだったのでまあ良しとして、もう少し飲もうということで店を移動した。
Shakti / Yen Chang
この店に僕が最初に行ったのはもう10年も前のこと。マスターは軽く150キロはあろうかという巨漢で、しかも頭をツルツルに剃ってしまったので、ぱっと見ちょっと怖いが、実はすごく楽しくて優しい人だ。10年前から大ベテランのような顔をしていたが、当時彼はまだ20代後半だった。この10年間、彼の容姿は殆ど変化していない。
土曜日ということもあって客は僕達だけ。僕はワイルド・ターキーのライをロックで、ニナはボンベイ・サファイアをロックで。シングルで頼んでいるのに麦茶のようになみなみと注がれたバーボンが僕の前にどんっ、と置かれる。相変わらずだ。
暇にまかせて散々あれこれと話をする。僕はバーボンを5杯飲み、ニナはジンを二杯とハーパーの12年のロック、〆はジントニック。途中からマスターもタンカレーのストレートに塩をまぶして一気のみする。時間がゆっくりと這うように流れ、僕は久し振りに完璧に酔った。
彼も都会の真中でずっと生きていることの辛さを知っていたことが、僕にはすごく嬉しかった。彼が他に客がいないのでかけてくれたCDは、どれもヒーリング系のものばかり。優しい音を聴いていないと生きていけないんだよね、きっと。Miles DavisやBillie Holiday、そしてJohn Coltraneに混じって、「Sacred Spirit」というアーティストのCDを聴かせてもらった。「ur words」に通じるところがあるような、心の中を静かに落ち着かせてくれる作品だった。しかも「Circle Dance」という曲が入っていた。
彼は1969年もののとっておきのハイランド・モルトをサービスで一杯飲ませてくれた。散々飲んだ後だったので、いい加減舌が利かなくなっていたのだが残念だったが、それでもあのスコッチは旨かった。口の中に広がる丸くて滑らかな甘味と、その後からやってくる角張った渋味と香りが、28年間という時間じっと樽に入って過ごしていた凄みのようなものを感じた。
Circle Dance / Yen Chang
母と弟と話をして、クリとマリの二匹のネコと遊んで、フラフラと表に出る。タクシーの乗り込むとあっという間に眠ってしまい、家の近くに着くまで一度も目が覚めなかった。家の近くまで何とか歩いてきたが、急に気持ち悪くなって吐いた。トイレ以外で吐いたなんて、大学3年の時以来だった。やはりまだ体調が不完全ということもあるんだろう。ニナに見られるのが恥ずかしかったので、先に部屋に入っていてもらった。うぬう。
そんな訳で今日は一日中二日酔い。でもちゃんと午前中に起きて買い物に行ったり、それなりに充実はしていたような気も。
そうそう、そんな訳で、昨日はニナと僕の一周年記念のお祝いで六本木で飲んできたのでした。ベロベロになってしまったけれども、楽しかったな。この一年、僕はホントにあっという間だったような気がする。来年の今ごろは、僕は一体何を思っているのだろうか。非常に興味があるところだ。少なくともまだこうして日記は書き続けているような気がする。
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引っ越し以来初めて六本木で飲んできた。
六本木の交差点から西麻布へ移動、僕の実家のすぐ裏にある穴蔵のようなバーへ。
いつの間にかすっかり時間の感覚がなくなってしまい、気付くともう終電はなくなってしまっていた。すっかり酔っ払っていたので、何故か突然真夜中に実家を襲撃することにした。