真夏の夜の夢 思うこと Summer Edition


1998年7月13日(月)




Chaosmos / YEN

深い夜




僕の目の前に中年の疲れた男が座って酒を飲んでいる。


家族もなく、ただ仕事と酒にしか生き甲斐を見出せない、悲しきサラリーマン。


中年の男は、日本酒を熱燗で何本か飲んで、ひどく酔っている。何度も何度も繰り返し同じことを言い続けている。寝ても覚めても仕事の話。


自らのあまりの孤独さを自分で支えることができず、他人を振り回し、迷惑をかけ続けるこのオジサンの淋しさを、一体誰が癒すことができるのだろうか。


帰っても待つ人のいない部屋を忌み嫌い、誰彼となく連れ回し、自らの感覚が痺れて無感覚になるのを待ち、混濁した意識の中に自らの孤独を溶かし込んでいくことしか出来ないこ男にとっての希望とは、一体何なのだろうか。


自分が癒される為の努力を、とうの昔に止めてしまったこの淋しい50歳の独身男の小さな背中を、どうやって暖めれば良いのだろうか。


仕事がなくても淋しくて休日も会社に出てきて一人でビールを飲み続けるという、この男の心の軋みは、


もう既に固くしこり、ほぐれて柔らかくなることはないのだろうか。


地下鉄への階段をフラフラしながら降りていく男の背中は、とても小さく見え、僕は怒りにも似た苛立ちを感じつつ、彼の背中を見送った。








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