眠ったり起きたりを繰り返しながら、結局昼まで寝てしまう。最愛のばあちゃんが死ぬ夢など見てろくでもない気分になってみたり。
しかし目覚めは結構良い。夢の影響はほぼない。今日は冬物のコートを買いに行こうと決めていたので、慌てて支度をしてニナと手をつないで出かける。
まずは腹ごしらえ。近所の「華一会」という中華料理屋で美味しい食事。こんな辺鄙なところで店をやらせておくのはもったいないぐらいの美味しさ。六本木でも十分通用すると思うんだが、こののどかな感じも味のうちと考えると、やはりこの場所だからこそなのかも知れない。
お腹も一杯になったところでバスと電車を乗り継いで銀座へ。まずは有楽町の西武でクレジットカードの残額をまとめて返済。はー、気分すっきり。やっぱりカードの借金なんて、実にくだらない。残りの人生、ゲンナマ主義で行きたいと、切に願う。まだまだ借金はあるんだけれども。
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銀座はどこもものすごい人出で、不景気なんかどこかに吹っ飛んで行ってしまったような気がする。ぞろぞろと人々の後をついて銀座四丁目の交差点を渡り、目当ての洋服屋へ。
コートを何着か試着してみるが、どれもイマイチで納得できない。高い買い物だから妥協したくないので、何も買わずに店を出る。再び銀座四丁目の交差点を渡って三越に。ここでニナにプラチナの指輪をプレゼント。納得の行くものが見つかって何よりなにより。つきあって二年以上経って、ようやく指輪をプレゼントできました。
ものすごい人出の銀座を後にして、僕とニナはコートを求めて新宿へと移動するのであった。
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新宿の伊勢丹には、大きいサイズの紳士服売り場がある。その名も「スーパーメンズ」。なんか偉そうでいい名前だと、前から気に入っている。
前にも応対してくれたお兄ちゃんに薦められて何着か試着して、かなりいい感じのものが二つ。ダブルとシングル、トラッドとトレンド。かなり悩んだ結果、ちょっと今風のシングルのコートを購入することに決定。色はもちろん黒で、裾は僕の身長でも足首近くまである長さ。うん、こんなのが欲しかったのだ。
コートが予算より大分安く手に入ったので、浮いたお金でシャツとネクタイを購入。シャツは前から欲しかった、白だけどサラリーマン臭くないやつで、ネクタイは鮮やかなブルー。どっちもすごくいい。うん、満足。
伊勢丹を出て、靴屋で修理に出してあったスエードの靴を受け取る。3,000円でボロボロだった靴が嘘みたいに生き返るのを目の当たりにして、どうして今までリフォームに出さなかったのだろうと後悔するのと同時に、久し振りに手許に戻ってきた履き慣れた靴の元気な姿を見て嬉しくなる。うーむ、これからはもっと大事に履こう。
新宿の街も銀座に負けないぐらいのものすごい人出。本当に不況はどこかに行ってしまったのかも知れない。
ニナと、新装開店している「ファッショな居酒屋」に行こうという話になる。感傷的兄様も誘おうと携帯に電話したら留守電だった。ちょっと迷ったのだが、多忙な彼を無理に呼び寄せるのも悪いような気がして、今日のところは二人で行くことにした。
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どきどきしながら吉祥寺の駅を降りる。あんなに好きだったファッショな居酒屋がどんな店になってしまったのか、期待と不安が入り交じる。店の前に着く。外観は全然変わっていない。ドアを開く。聞きなれた声が耳に入る。牛舌を焼く煙が立ち篭めているが、内装はほとんど変わっていないようだ。やー、ファッショな居酒屋だー。
まだ6時をちょっと過ぎたばかりだというのに、もう店内はほぼ満席。変わらぬ店内の雰囲気を満喫しつつキョロキョロと店内を見回す。何かが足りない。何かがおかしい。そうだ、店長の「ファッショな十河君」がいないのだ。
ニナも不安そうに店内を見回す。「十河君、やめちゃったのかな」。
メニューを広げる。牛舌専門店として生まれ変わったファッショな居酒屋だけあって、牛舌のメニューが並んでいるが、どっこい、ちゃんと昔からのメニューも残っている。おぼろ月見豆腐、コロッケ、鰯の竜田揚げ、角煮(これは牛舌の角煮だったが味は一緒)、おたふくオムレツ。ああああ、同じ味だよ、同じ味。お通しのサラダのドレッシングも全く同じ味。よかったー、よかったー、よかったー。
店員の皆さんも相変わらずのハイテンションで、ファッショな居酒屋健在という感じ。来年春の「思うこと」三周年オフは、できればこの「ファッショな居酒屋」でやりたいなあ、などと思いに耽ってみたり。でも放っておいてもこれだけ客がくるんだから、貸し切りはやってくれないだろうとも思う。
帰り際に、おヒゲの店員さんに十河君の行方を尋ねると、単に今日はお休みだったとのこと。その一言でひどく安心して店を出る。この店は、何とかなくならずにずっと存在し続けて欲しい店の一つだ。まあこれだけ客が入っていれば(駅からこんなに離れていても)、当分は大丈夫だとは思うのだが。
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もうちょっと飲もうかということになり、同じく吉祥寺名物の「カーブじゃなくてケーブ」へと脚を運ぶ。ニナはお店のオリジナルカクテルの「Soul Kiss」と「Sunset Fall」を、僕は「Teacher's」のロックと「White Lady」を。限りなく暗闇に近い店に、微かに響く古いジャズ。囁くように語りあう人々と、カチリと触れあうグラスの音。んんん、たまらない。
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店を出たら、まだ9時過ぎだった。成蹊学園のあたりまでぶらぶらと散歩して、それからバスに乗って帰る。家に着いてもまだ10時前。古い映画をビデオで流していたら眠くなってしまった。テレホタイム前に眠る。健康的な生活かな。それにしても、今日はよく歩いた。
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