思うこと


1999年6月2日(水) はれ

家に帰ってきたらニナがいなかった。

最近このパターンはなかなか珍しい。僕はすっかり残業男になってしまい、一方でニナは残業シナイオンナになってしまったからだ。最近では、家に帰ってきたらインターホンを鳴らして鍵を開けてもらい、ただいまーと言って家に帰ってくるのがデフォルトになっている。

だから、家に帰ってきてニナがいないと、何だかすごくウキウキしてみたり、ソワソワしてみたり、ビクビクしてみたりと忙しい。これは俺だけの自由な時間だ〜、という気持ちと、早く帰ってこいよ寂しいじゃないか、という気持ちが入り交じり、何をしようかと考えているうちに10分ぐらい経ってしまった。

せっかくだから(せっかくだから?)オナニーでもしてみようかと思いズボンを降ろしたが、どうもイマイチそんな気分でもない(我ながら何をやっているんだか)。日頃なかなか電話できない女の子達にでも電話してやろうかと思ったが、昼間仕事で電話しすぎていて今更受話器をとる気になれない。

そうだ、今日は資源ゴミの日だ。そうだそうだ、今日は資源ゴミを出すのだ。先週も先々週もその前の週も、僕が深夜残業だったり飲み会だったりして、ずっと出せずにベランダに溜め込んであるのだ。空き缶空き瓶ペットボトルの類。大酒のみカップルの部屋だから、4週間分の資源ゴミの量は半端ではないのだ。今日は何が何でもゴミを出すのだ。

というわけで資源ゴミをわんさかと出し(これがなかなか面倒臭いのだ、ルールがいろいろとうるさくて)、ほっと一息をつくともう30分近く経っている。とりあえずグラスに氷を放り込み、バーボンをソーダで割って1杯。タバコを吸いつつマックを立ち上げこうして日記書きなど。

楽しんだか寂しいんだかよく分からないまま、それなりにリラックスしつつ夜は更ける。

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注射針が自分の皮膚に突き刺さって、まるで吸い込まれるように体の中に入っていくのを、思わずうっとりと眺めてしまった。

そう、今日は会社で健康診断があったのだ。たしか今年で3回目ぐらいなのだが、去年も一昨年も僕は仕事で外出しなければならず、受診できなかったので、今年が初の健康診断。

で、血液検査。実は僕、血を抜かれるというのは今日が生まれて(多分)初めての経験で、すごくドキドキしていたのだ。昨日受診した女の子が、「立花さん、採血は死ぬほど痛いから覚悟してください」などと言って脅すものだから、採血の前にあった血圧の測定では妙に血圧が乱高下してしまうほど、ドキドキしていたのだ。

散々待たされてようやく採血。看護婦さんは二世代前のオネイサンという感じでちょっと残念だったのだが、てきぱきと手際良く僕の二の腕をゴムで縛り(あぁ)、注射針を何の躊躇もなく僕の肘の内側に差し入れた。僕は目を逸らそうかと思ったのだが、注射針に開いた細い穴に魅入ってしまい、針が皮膚を破って体の中に入っていく様子をじいっと見つめていた(あああぁ)。

全然痛くないし、異物感もない。ただ針が肌につきささっていて、注射器の中にトコトコと僕の血が溢れていくのが見えているだけ。僕は女の子じゃないし大きな怪我もしたことがないから、こうやって自分の血液が溢れるように流れ出すのを見たのは初めてで、そうすると自分の体の中に本当に赤い血が流れているのだということをようやっと確認し、なんだかとてもいい気分に(はぁぁ)。

二世代前のオネイサン看護婦さんは、刺した時と同じぐらいさりげなく針を抜き、間髪を入れずに脱脂綿を僕の肌に開いた穴へとあてがってしまった。このまま脱脂綿をあてがわなければ、ぴゅーっと血が吹き出るのかな、とかなり興味はあったのだが、順番待ちが列をなす検査会場で血まみれになっても誰も同情してくれなさそうなので、元オネイサンの指示に従って5分ほど脱脂綿を押し当てて、その後で白い絆創膏を貼ってもらった。針が刺さっていた穴は、ポツンと茶色くそこにあり、まるで異次元への入口みたいだと思った。3秒ぐらいじっと見つめてみたが、もう血は全然出てこなかった。

献血マニアの人々の気持ちがちょっとだけ分かったような気がした(分かってるのか本当に)。

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鈴木清剛、「ラジオ デイズ」読了。


 

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