思うこと

1999年8月19日(木) 曇り 時々 雨

南の島旅行記、今日で第七回(旅行は六日目)。前の回は、このページの一番下の←から戻ってください(手抜き)。

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目が覚めると背中がヒリヒリと痛い。肩も痛いしふくらはぎも痛い。起き上がって鏡で見てみると、背中も肩もふくらはぎも、パンパンに腫れ上がって真っ赤になっている。確かに昨日から赤くはなっていたけれど、ふくらはぎにいたっては、立ち上がるだけでも激痛状態で、体の位置をずらすのにも一苦労という状態。うーむ、おそるべし、南の島の太陽よ。

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今日は昨日とはうってかわって再び雨模様。でも立って歩くのにも一苦労という状態では、晴れていたとしてもとてもとても海水浴なんかできない。ニナはちょっと残念そうだった(ちなみに彼女はSPF123の日焼け止めを体中に塗りたくっていたせいで全然焼けていない)が、僕はちょっとほっとしたりして。

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昨日、宴会の最中に、宿の老旦那が、「是非、紀元杉は見ておきなさい」と言っていたので、せっかく雨も降っていることだし(海に出られないし)、ちょいと車で出かけてみようということになる。

屋久島には、屋久杉という、屋久島にしか生息していない杉の木がやたらと生えているのだが、中でも縄文杉弥生杉などは、推定樹齢が7,000年とも5,000年とも言われていて、そりゃもう物凄いことになっている(らしい)のだが、生憎縄文杉を見に行くためには、車で行けるところから、往復10時間の山登りをしなければならない。

僕は山登りなんて、中学生の時の車山登山以来したことがないので、とても往復10時間なんてできない。

で、紀元杉というのは、その名の通り、樹齢3,000年弱の大木で、車で行ける最大級の屋久杉、ということ。ふむふむ。

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体中にカーマインローションを塗ったんだけど、車に乗るのも大騒ぎというほどヒリヒリヒリヒリ。シートに背中があたっているので、運転しているだけでもずっと痛い。あぁ、辛い。

とりあえず車で安房へ。で、安房からどんどん山に登っていく。しばらく走るとがけ崩れ。片側相互通行になっているのだが、メチャメチャ怖い。

そうそう、書こう書こうと思って今まで書くのを忘れちゃってたんだけど、屋久島ってのは、何もかもがシャレにならない島だと、つくづく思う。

自然を最優先させているからこそ、自然のルールには絶対従わないと、簡単に命を落としてしまう。そんな怖さが常に身にしみる。

例えば、海水浴にしても、外海で波が荒く、しかもすぐに深くなっている。海岸には当たり前のことだけどライフガードなんて一人もいないし、1キロの砂浜に5組ぐらいしか人がいないから、調子に乗って沖に出て溺れても、多分誰も気づいてくれない。

例えば、山登りにしても、屋久島の山は、九州一の高山で、沢は深く峰は険しい。南アルプス並の山々が、ドーンと島の真中にあると考えてもらうと非常に分かりやすい。だから、軽い気持ちで「山登り」なんて思ってはいけない。フル装備の「登山」だと思って山に入らなければ、遭難してしまう。

中途半端に観光化された自然ではなく、生々しいリアルな自然と向きあっていると、何をするにも、常に怖いというイメージが湧いてくるのは、きっと僕があまりにも都会の生活に慣れてしまっていて、野生の生き物(それは動物でも植物でも気象でも土壌でも)に対して無意識的に敗北的な気持ちになっているからなのかもしれない。

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山道をずんずん走っていくと、屋久ザルの群れが車道に座り込んでいる。猿や鹿にエサをやるなと、そこら中に書いてあるにもかかわらず、我々の前を走っていた車の人達は猿にエサをやっていた。野生の猿はエサを貰うことを憶え、人を怖がらなくなり、やがて畑を荒し、もう野生には戻れなくなってしまう。

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小一時間ほど山道をどんどん登っていき、道路の舗装もなくなってしまい、携帯の電波もラジオの電波も届かなくなったところに、紀元杉は凛として雨の中立ち尽くしていた。

写真で見る限りでは、正直言って僕も、「ふーん、屋久杉かあぁ、何かすごいねー」みたいに呑気に構えていたのだが、これが実物を見てしまうと、そのスケールの大きさと厳粛さに、思わず我を忘れてしまいそうになる。

紀元杉は樹齢約3,000年である。ということは、徳川家康の時代の時も、後醍醐天皇の時代の時も、聖徳太子の頃も、倭建命の頃も、ずーーーーーーーっと、この杉はここにあって、雨に打たれたり陽光に包まれたりして、今日僕達がやってくるまでじっとしていたんだ、と思うと、これは本当にとんでもないところに来てしまったという気持ちになる。

紀元杉でこんなに感動してしまうんだから、一番古い縄文杉(推定樹齢7,000年)なんか見た日には、思わず悟りを開いてしまうかもしれない。

ちょっと大袈裟だけど、こればっかりは実物を見てみないと、伝わらないのではないかな。

ちなみに紀元杉のすぐ近くには、湧水があって、名水100選にも選ばれているというので、ニナがカラのペットボトルにその水を詰めてきてくれた。確かに美味しい水なんだけど、ペットボトルがアクエリアスが入ってたものだったので、どうしても水がアクエリアス臭くて、いまいち良さが分からなかった。

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宮之浦にある蕎麦屋でお昼。まずかった(笑)。どうしようもないぐらい。

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高校野球。青森山田高校、準々決勝でついに敗れる。相手は鹿児島代表の樟南高校。

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夕食は日に日に豪華さを増し、今日はまさに絶頂を迎える。刺し身、天ぷら、うなぎの蒲焼き、焼魚、野菜の煮物などなどなど。

夕食の時に聞いたのだが、どうやら弱い台風が発生して、こちらに向かっているらしい。明後日あたりかなりヤバイかも、と言っていた。僕らは明日帰るから、何とか大丈夫そうだ。

今日は、新たに3組ほどの人々が泊まりにきていた。どうやらこの牧旅館、かなり流行っている旅館らしい。

今日も焼酎をロックで飲み、一旦部屋に帰る。相変わらず体中がヒリヒリしていて辛くて仕方がない。痛いのがガマンして一日動いていたせいですっかりグッタリしてしまい、9時頃に眠ってしまう。

さすがに早く寝過ぎたみたいで、11時頃に目が覚め、まだ起きていたニナとバーボンをチビチビやり、また眠る。

ああ、ふくらはぎと背中と肩が、痛い。

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村上龍、「テニスボーイの憂鬱」読了。


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