The Wagon / Dinosaur jr
Crucification
アタマの中に膿がたまっててかったるくてしょうがないので、
ちょっと振ってみた。カラカラと乾いた音がしてる。
耳からアタマの中にも水滴がガンガン入っている。ワカメが
戻るみたいに、カラカラ鳴ってたカタマリがフワフワした妄想に
成長して、鼻孔から流れ出てくる。
傘もささずに暴風雨の中を歩いていると、自分のカラダから湯気が
もうもうと立ち上る。17号のチカラが僕のカラダのほとばしりを
むしり取ってどこかへ持っていってしまう。ああ、返してくれ。
せっかく立ち上らせたのに。
思いきり首を振ったら、隣を歩いていたお姉さんに思いっきり水滴が
かかってしまい、ブラジャーをしていない乳首がはっきりと見えた。
もうだめだ
買ったばかりの狂気を握り締め、家に向かって走り始めた。
泳いでるみたいな感覚にふと襲われて自分でも驚く。
横殴りの雨が、僕の体中を一瞬にして包み込み、二度と離さないと
いいながら抱きしめられているかのように風に縛り付けられる。
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Smells Like Teen Spirit / Nirvana
風雨はますます強くなり、車庫までの30秒間に、体中が再びずぶぬれになった。やっとのことで 車にすべりこみ、雨に濡れたジーンズからタバコを取りだす。湿ったタバコにはなかなか 火がつかない。3回目でやっとついた。
今度はキーをひねってもエンジンがかからない。なかなかうまくつながらない。くわえた タバコの煙が目に入ってくる。しみる。やっとエンジンがかかる。アイドリングなしで 暴風雨の中に跳びだした。
Ceaseless Continuity of Steady Friction of the Mucous Membrane
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Don't Ask Why / My Bloody Valentine
ぎりぎりの状態で部屋に飛び込む。限界点をとっくに超えていた。
優しい顔をした、優しい瞳の、優しい色の中に、必死になって逃げ込んだ。
水を一杯もらい、タバコに火をつけ、抱きあう。
もつれるまま、ほとばしるまま、全てを感情の動くままにして、絡みあった。
風と雨の音、手足をもぎ取られまいと必死にこらえる木々の悲鳴が僕達の
高まりを、誰にも伝わらないように隠してくれた。
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The Drowners / Suede
嵐が去らないうちに、すぐに海に行こう。早く行かなくちゃ、海が
待ってる。まどろむ間もなく、腕をとるようにして、再び水の中に向かって
泳ぎ始める。
正面を見据え、チカラを込めて、走り始める。すぐに水に飛び込む。一瞬のうちに
全ての背景が失われ、灰色の水だけが僕達を包み、全ての色が失われたかのように
思われるが、次の瞬間には力強い腕が、僕達を再び現実へと引き戻してくれる。
急がなきゃ、間に合わない。早く、早く。はやる気持ちとは逆に、ミドリ虫達に
足をとられて、なかなか思うように海に向かえない。
焦燥に身を任せて、さらに僕達は進む。
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I Wanna be Your Dog / Stooges
国境の街。風速13メートル。
ああ、間に合わなかった。
ダメだ。もっと進みたい。ここまできて、帰れない。抜け道を探し、
何とか国境の橋にたどり着いた。
振り返ると、僕達が逃げ出した町並みが、どす黒く、雨に濡れて
泣いていた。
感傷的になることを拒み、前だけを見る。
橋が、長く、長く、長く感じられ、暴風に舞う木々の切れ端までが、
切なく思われてしかたなかった。
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Alive and Kicking / Simple Minds
海の街と呼ぶにはあまりにも人工的な街だ。コンクリと
海と鉛のような雲のサクセション。
ああ、僕が求めていたものは、もう永劫手に入らないのだろう。
どうしても、何が何でも手にいれたかったのに。ああ。
荒れ狂う海を目前にして、全てを投げ出したかったのに。
鉄道の高架と高速道路の高架の交わりの下を、虚しく走る僕達の目の前に、
奇跡は突然起こった。
去りゆく嵐が散り散りになり、破片が空中を無数飛んでいた。
水平線に限りなく近い空から、黄金の太陽が突然僕達が捨ててきた、あの
コンクリの塊の街と、国境のとてつもなく長い橋の、欄干だけを、まさに
黄金色に照らしだした。
突然の奇跡に僕達はパニックに陥った。てんで勝手なことを言い、てんで
ばらばらな方向を向いて、どこに向かって走っているのかも忘れてしまった。
鉛色の海、鉛色の空、無数の粒子を含んだ濡れた大気の中に、あまりにも神々しく
輝く黄金の橋と黄金の町並み。
あっけにとられる僕達はただ、混乱するしかなかった。
しかし、それはまだ、ほんのプロローグでしかなかったのだが。
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Friday I'm in Love / The Cure
呆然と、方向を失ったまま走る僕の横で、金切り声が
僕を正気に引き戻す。
「虹よ!虹よ!」
虹を見たいという衝動よりも、突然の金切り声に驚いて思わず車を止め、
バックミラー越しに背後を見る。
コンクリだらけのビルの間を縫うように走る鉄道路線の高架。そしてその
高架の真上からどこまでも高く、高く、高く伸びる七色の国境の橋。
今までに経験したことのない、異常な神経の高ぶりを感じ、再び
アクセルを思いきり踏む。
必死に鉄道と高速の高架を振り切り、空が限りなく見える海辺にたどり着いた。
鉛色のサクセションだった空は、今は無数の小さな雲のばらばらな集まりになり、
てんで勝手な方向に進んでいた。そして、広い広い鉛色の空と、ほんの一部だけの
黄金色の空をまたぐように、あまりにも美しい、大きな虹が、僕達が逃げてきた
あの街と、今僕達が逃げ込んだこの海辺の街の両方を包み込んでいた。
はっきりとした7色の外側に、微かに光る別の七色。14の色、14のベクトル。
呆然と車から降りた僕達の顔には、まだ横殴りの雨が微かに振り付け、
僕はタバコをつけようとするが、湿ったタバコに火をつけることを
強風が拒んでいるようだった。いいから黙って見ていろ、と。
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Walk on the Wildside / Lou Reed
虹が僕達の前に存在したのは、恐らく3分以下だっただろう。
あの長い長い橋を黄金に変えた太陽は、すでにそのチカラを失い、もうすでに
雲と海の間の、鉛色の空間に姿を消しつつあった。
顔とカラダに細かい雨粒を受けながら、僕達はいつまでも虹のかけらが落ちては
こないかと、ずっと待っていた。
僕達はトボトボと車に戻り、方向性を失ったまま、もう一度走り始めた。
黄金の光りをもう一度見ようと振り返った僕達は、大自然以外の何物も
創りえない、グレイから赤、赤から青、青からグレイへの見事なグラデーション
にココロを奪われてしまった。
再び車を止め、エンジンを切り、息を止めて雲と太陽と富士山と大気と僕達と
Lou Reedの創りだす奇跡を見届ける。言葉がでない。
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Song to the Siren / This Mortal Coil
海辺に出てみた。長い長い、国境の橋は、パレードの車列が
ひっきりなしに通り、灯る明かりの列が、スモグを吹きとばされた、神聖な
大気をフィルターして、鮮明に飛び込んでくる。いつもよりもいくぶん強い
波が、僕達の足元を浸しては、引いていく。秋が深まる。プラチナ色の月が、
リゾートの客室の上から、自信に満ちた顔をだしていた。夜が再び華やかになる。
奇跡に導かれるまま、僕達は再び国境の長い長い橋を渡ることにした。現実に
もう一度身を投じる勇気を月に与えられて。
さっき僕達を封鎖しようとした警察の姿も消え、道路にウジャウジャとへばりついていた
ミドリ虫達も、もう森に帰った後だった。
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Oh! Patti / Scrritti Politti
安っぽいコーヒーと、トロピカルなお茶と共に、今日の
奇跡について僕達は話し続けた。まるで、僕達だけが、選ばれてあの
奇跡を体験できたと確信しているかのように。
夢を見ているかのように、僕達はもう一度だけ抱きあい、キスをして、
お互いの温もりを確認して、別れた。
もう、空には、一つの雲もない、深い黒い、秋の夜だった。
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Orange Rolls, Angel's Spit / Sonic Youth
全ての余韻を引きずったまま僕は自分の気持ちを否定するために
暴走している。
あまりにも奇跡的な一日だった。何かに誘導されていたと考えるしかないだろう。
すべてが用意されていたとしか。
いや、そんなはずはない。偶然だ。僕達が、特別に選ばれていたなんていうのは
妄想だ。ただ、偶然、僕達は、そこに、いただけで。
今日手に入れたばかりの狂気に身を委ねようと努力するが、あまりにも強い一日の
余韻を消すことは、できないようだった。
この奇跡が現実だったのか、それとも単なる僕の妄想だったのかを知るためには、
僕はこのバーボンを飲み干し、眠るしか確認の方法が見つからない。
狂気に身を委ねたまま。ああ、重低音の、狂気。
som1973/
フナイ/
稀Jr/
安原/
山本/
狂楽/
ばうわう/
わっちゃん
松木/
藤間/
諸星/
赤尾/
松永/
岡田/
江口/
Alice/
うえだ
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