あなたの温もり 思うこと  不明編




1996年11月3日(日)

Return to Innocence / ENIGMA





低く垂れこめて僕に閉塞感と孤立感を募らせていた雨雲が、徐々に途切れ始めている。



途切れることなく、永遠のもののように感じられた厚い、灰色の雲が、小さな塊の不規則な連続となり、西から東への風に乗って流れていく。



多量の水分を含んだ大気から、細かい粒子の水分が、太陽光線の予感に、上昇気流をつくりだし、僕の眼をハレーションさせている。



もっと空が見たくなって、屋上に登ってみた。微細な水の粒子が僕のカラダのまわりからも立ち上がっている。



アスファルトとコンクリに囲まれたこの町が、莫大な数の水蒸気を立ちのぼらせ、呼吸をしているように感じる。



タバコに火をつけて、両手を高くかざして、みた。



光が、眩しくて、眼を、閉じてみた。





Fading Like a Flower / Roxette (thanks akko)





孤独であることを恐れるあまり、自分を失ってしまい、



誰かを傷つけては、ふたたび自分の殻に潜り込み、己の孤独を嘆く。



殻の中で僕は口から白い細いキラキラ輝く糸を吐きだし続ける。



細くて白い糸は僕のカラダを覆い始め、やがて僕は視界を失う。



キラキラと輝く糸に包まれ、僕はずっと音を聞いている。



繭の中で、僕はずっと映像を見ている。



暗闇の中で。



傷つけたもの、失ったもの、愛したもの、乗り越えられなかったもの、大切なもの、乗り越えて行きたいもの、愛していきたいもの、失いたくないもの、傷つけたくないもの、



暗闇で眼を見開いてみると、そこには細い血管が無数に走っているように感じる。



負傷兵が、傷ついた脚とココロで、それでも胸をはって歩いてくる足音が聞こえてくる。



歌声が聞こえてくる。横隔膜と声帯が痙攣し、途切れるように唄い続ける声が。



バリバリと轟音を立て、シコルスキー型ヘリが飛び立っていく。



少しだけ、繭に亀裂が見えるような気がする。



手を伸ばして亀裂に触れてみる。



拳を握りしめて、自分にチカラが戻ってきたことを確認する。



自分のチカラを確信して、繭から、飛び出す。







Chelsea Girl / Ride





少しずつ、近づいてくる、もう少し、もう少し、



距離感が非現実的な速度で、圧縮されていく。



重苦しい大気を引き裂くように、光の帯が街から街へと僕に向かって這うように飛んでくる。



時間軸と距離軸がゼロになる、僕の次の時代が始まろうとしている。



足下を掬われないよう、警戒しつつも、全力で走っていきたい。







cafe bleu








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