Hey Lula / Yen Chang
Don't Ask Why / My Bloody Valentine
Song to the Siren / This Mortal Coil
Fotzepolitic / Cocteau Twins
Dirty Boots / Sonic Youth
Blackwater / Rain Tree Crow
ドアを開くと空気が重く停滞していた。
いつの間にか雨が降ったらしい。
濡れたアスファルトの上をゆっくり二人で歩く。
張り詰めるような乾燥した大気ではなく、沈み込むような湿度を持った冷気に、
吐息が白く濁る。
握ったままの手が名残を惜しむように温もる。
誰も通らない初冬の夜に、唇を重ねる。
靴の音が響き、闇が降りる。
土と雨の香りに満たされて。
無人のバスに乗り込み、眼を閉じる。
冷えた空気にエンジンの唸りが響き、振動が土と雨のニオイを揺さぶる。
対向車線を走る車の帯が時間を戻そうと泣いている。
窓に写る自分の顔を見て、
笑いかけてみた。
駅に着くとギタリストの演奏が耳に聞えてきた。
やっと居場所を見つけたと安心したような自信に満ちた歪み。
電車に乗り込み再び眼を閉じる。
光の帯は僕の生まれた町を通過し一気に土と雨のニオイを消し去っていく。
電車を降りると13本の塔が目前に迫り、
屋上からキクが手を振っていた。
雑踏の中をフラフラと歩く。
コンクリ漬けの街は僕の神経をゾリゾリと逆撫でしつつ、
ばか笑いと流行りの音楽と酒と精液に溢れ、
暗闇は熱気で焦され、空はオレンヂ色に染まり、
ミドリ色の泡を噴いている。
コートの内側にしまいこんだ雨と土の香りを無くさないように、
背中を丸めて歩く。
肩をぶつけてきた長髪のオトコを睨んだとき、
コートの襟から香りは全て逃げていってしまい、
都会の悪臭に混ざり合い、
風化していく。
眩暈を伴う放心を何とか抑えつつ、バスに乗り込もうとする。
土曜日21:30。
乗り込もうとすると、目の前のオンナのケイタイが鳴った。
ステップの途中で電話を持ち、そのまま話しを始める。
料金を払いもせず、入口を塞いだまま大声で話し続ける。
運転手がマイクで何か言っている。
突き飛ばすようにオンナを排除し、乗り込む。
耳や鼻にピアスをした若者で車内は熱い。
渋谷発六本木経由新橋行き。
冷気に触れられるように、出口に近いところに立つ。
あちこちでケイタイが鳴る。
あちこちで大声で喋る。
コロナをラッパのみする外人とその外人にの腕にしがみつく日本人のオンナ。
ケイタイの音が風の音を遮り、香水と酒のニオイが土と雨のニオイを葬り去った。
バスが揺れる。熱気を孕んだ空気が膨張し内臓が破裂する。
窓の外をバイクの二人乗りが通り過ぎる。
ガスボンベを大事そうに抱え、こちらを見てニヤリと笑った。
バイクは一直線に走り去り、ミドリ色の液体がタイヤの後を濡らした。
家に辿り着き服を脱ぎ捨て、明かりを消す。
ジンを煽りボリュームを上げ眼を閉じる。
音の隙間に割り込んでくる首都高の轟音と酔っ払いの笑い声。
カラダを折り曲げるように横たわり、
雨と風とあなたの温もりを必死に思いだす。
Haru/
shin-ya b/
かおり
nico/
Kana
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