あなたの温もり 思うこと  不明編


1997年10月19日(日)


Hey Lula / Yen Chang


運命の人について僕もちょっと。

思わず心が火を吹くような、運命の出会いを信じてしまうような想いをしたことが僕にもある(かやすがさんはあまり信じていないらしいが)。相手も同じことを考えていたためにものすごい恋になった。燃えている間は激しかったが、燃え尽きるのも早かった。

大学を留年して、二回目の一年生だったころ、僕は新たな学生生活のスタートを切るべく英会話学校に通い始めていた。当時僕は9歳年上の彼女と半同棲状態にあり、その生活に特に不満はなかった。

5月初旬のゴールデンウィークの谷間のある日、僕はその英会話学校の教室にいた。教室には僕を含めて3、4人の生徒がいたが、いずれも僕の知らない人で、僕は先生が来るまでの時間を、持ってきていた小説を読んで過ごしていた。

ドアが開く音と共に彼女は入ってきた。僕はてっきり先生が来たのだと思って顔を上げたが、僕の視界に飛び込んできたのは、僕の理想を絵に描いたような美しい女性だった。彼女は教室に入ってくるのと同時に僕と目が合い、そのまま二人で固まってしまった。

その日の授業の内容は僕には全く頭に入らなかった。授業が終わると僕は彼女を追い掛けようと教室を出たが、ロビーで友達に呼び止められ、話をしている間に彼女を見失ってしまった。僕はエレベータホールまで走り、焦れるような気持ちでエレベータが一階に着くのを待ち、エレベータを降りると新宿の地下街を当てもなく駅に向かって全速力で走った。今日彼女を見失ってしまえば、もしかしたら僕はもう二度と彼女に会うことはできないかも知れないのだ。

地下街に僕は彼女の姿を見つけた、いつもはひどい人見知りをする僕が、その時は全く躊躇することなく話しかけた。僕達は一緒に駅までの道を歩き、駅で次の授業の日を確認して別れた。僕の頭の中には彼女しかなくなっていた。

翌週に僕は彼女と英会話学校で再会した。授業なんてどうでもよくなっていて、僕達は授業の後長い時間をかけて話をした。僕達はその時すでに猛烈な恋に落ちていたのだが、まだ僕達には自覚症状がなかった。

それから2カ月程して僕はそれまでつきあっていた女性と別れ、正式に彼女とつきあうようになった。僕達はそれから1年半の間、ほとんど毎日ひたすらお互いを求めて会い続けていた。彼女の一挙手一投足が美しく、彼女は僕の言動全てを称賛してくれ、二人はまるで夢の中にいるように日々を送った。そのころの僕は彼女への想いが完全なる「愛」だと信じていたし、二人の生活は永遠に続くものだと確信していた。

始まりと同じように、僕達の生活は激しく、そして唐突に終りを迎えた。僕は彼女を失ったショックから立ち直るのに2年半の時間が必要だった。

彼女を失った瞬間に、僕は自分の「無軌道な若さ」とも、永遠に訣別したように今でも思っている。

最近、ようやく彼女とのことが、良い思い出だな、と思えるようになってきた。彼女と別れてから8年が経とうとしている。




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