秋の夜長に 思うこと  自閉編



1998年11月21日(土)雪のち晴

秋田大雪出張3日目。

今日は休日なので、東京に帰るだけで仕事はない。本来ならば黒ちゃんと遊びたいところなのだが、今回は残念ながらブチョウのお守りをしなければならない。滅多に会えないのに、くそー。

昨夜やたらと早寝をしたので、無闇に早く目が覚める。4時半頃。10分ほど起きて本を読んだのだが、またすぐに眠くなってしまい目を閉じる。次に目が覚めると6時過ぎ。カーテンを開けると窓の外は雪。ああ、また雪だ。

昨日の夜に買っておいたサンドウィッチと缶コーヒーで朝食をとり、ゆっくりとシャワーを浴びる。仕事がないのでネクタイはしないでおこうかとも思ったのだが、白ワイシャツにタイなしだとなんだか格好が悪かったので結局ネクタイ着用。

まだ時間がずいぶんあったので冷やかしにロビーに降りる。コーヒーを飲もうと思ってコーヒーショップに入ったらブチョウが朝飯を食べていた。ビールの大瓶が空になっている。やはり朝から飲むのだな君は。

適当に挨拶して二人してコーヒーを飲む。なんだかんだいいながらこの出張でずいぶんブチョウとは仲良くなったような気がする。まあそんなもんかも知れない。

--

コーヒーショップを出てフロントで汽車の時間を確認し、予定を決める。9時16分の「白鳥」に乗るので、念のため8時45分にチェックアウトすることに。フロントにその時間にタクシーを予約しようと思ったら、雪でタクシーが混んでいるから先の予約はできないと言われる。

時計を見ると8時10分。今から車を呼んでも来るまでに20分ぐらいかかるということなので、もう車を呼んでもらい、さっさとチェックアウトすることに。

8時35分にタクシーに乗り込み、ホテルを後にする。一昨日ほどの勢いはないが、やはりかなりの勢いで雪は降り続いている。除雪した路肩の雪の上に新しく純白の雪がどんどん積もっていく。大通りは人影もまばらで、雪の中ムリヤリ自転車を運転していく高校生の姿がやけに印象的だった。

駅前のロータリーはきれいに除雪されているが、路肩に積み上げられた雪は僕の背丈を越えるほど高くなっている。駅の待合室は高校生達がうじゃうじゃとたむろしている。今回初めて感じたのだが、秋田の女の子は本当に皆カワイイ。平均レベルが高いというか、極端にひどい娘がいないというか、みんな小奇麗にしていて、身のこなしなんかもかなりあかぬけていて素晴らしい。しばしブチョウと二人して見とれてみたり。

--

雪のせいで今日も電車が遅れる。もう今更多少の遅れなんかは全然気にならない。ブチョウなどは「3連休中に家に着ければいい」などと放言している。僕はそれじゃあイヤだな。

「白鳥」は8分遅れでやってきた。昨日の日本海の27時間遅れに較べれば、8分遅れなんて遅れのうちに入らない。冷えきった体が暖房に温められてリラックスしていく。ビールでブチョウと乾杯し、その後はワンカップ大関をくいくいと飲む。窓の外の雪は列車が南下するに連れて少しずつ少なくなっていく。

--

本を読んでいたらいつの間にか少し眠ったようで、気がつくとあつみ温泉だった。窓の外にはもう殆ど雪がない。むきだしになった地肌は雪景色よりもずっと寒々しくて、何だか変に感傷的な気分になる。少しだけ残っていた酒を飲むと、再び眠った。

次に目が覚めるともう新発田。新潟は目の前だ。座席の下に潜るような変な格好で眠っているブチョウを起こし、わらわらと支度をしていると列車は17分遅れで新潟に到着。

青森から大阪までを結ぶこの長距離特急が今後もなくならず走り続けられることを密かに願いつつ、列車を降りる。

上越新幹線と秋田新幹線に挟まれるように新潟と秋田を結ぶ羽越本線は、どうやらJRの開発からは完全に取り残されてしまった線区のようで、ダイヤ改正のたびに列車の本数が少なくなっていく。そして乗客はどんどん不便になっていくJRから離れ、飛行機や夜行バスを使うようになり、ますます羽越本線の長距離列車は本数が減っていく。次の出張の時にも、「白鳥」が凛とした勇姿を見せてくれればと願ってみたり。

--

新潟の町は冷たい雨に包まれていた。やっぱり雪より冷たい雨の方が寒々しい感じが強い。

駅の近くのビルの中の食堂で昼飯。新幹線まで1時間半あるので、のんびりとビールなど飲みながら過ごす。日本酒を2合飲んで眠った後のせいか、ビール一杯で結構酔ってしまう。うつらうつらしながら時間を潰し、新幹線ホームへと向かう。

--

三連休の初日ということもあって、新幹線はやけに混んでいた。ブチョウはひたすら眠っていて、僕は京極夏彦を読んだり眠ったりを繰り返していると、あっという間に国境の長い長いトンネルを越え、空は鉛色から抜けるような青空へと変化する。ああ、こっち側に戻ってきてしまったと実感する瞬間。なぜかいつもすごくガッカリする。

高崎を過ぎ、大宮が近づくと、もういつもの見慣れた景色。見慣れた日常の景色が近づくにつれ、何とも言えない失望感が体を包み込んでいく。3日かけてようやく馴染んだ秋田のリズムが体に入り込んでいて、東京のせわしないリズムを受け入れるのを拒んでいるようだ。

--

上野でブチョウが降りる。まあ色々ありましたがお疲れ様でした。東京駅に新幹線が滑り込むと、ようやく気分が入れ替わったような気がして少し元気になった。

東京駅までやってきていたニナと落ち合い、土産話をあーだこーだとする。中央線で信濃町まで出て、神宮外苑の銀杏並木の紅葉を見に出かける。サッカーの試合を競技場でやっていたらしく、信濃町の駅は物凄い混雑だった。どっちが勝ったんだろう。

絵画館前に到着して僕とニナは唖然とする。まだ紅葉が始まってない。がーん。

1メートル近い雪に閉じ込められてようやく東京に帰ってきてみれば、まだろくに銀杏並木も紅葉してないのか。改めて日本の広さと東京の異常さを認識する。仕方ないのでまだ青い葉っぱをたたえた銀杏並木の下のベンチに座ってしばしニナと談笑など。

--

信濃町に戻るのが面倒だったので、青山通りからバスに乗って渋谷に出ることに。青山通りというのは僕は昔からすごく好きな街並み。六本木なんかよりよっぽど上品でいい感じの街並みが続いていると思う。でもずいぶん街並みが変わったような気がするな。すっかり田舎者。

渋谷から井の頭線で吉祥寺に出て、居酒屋でタラタラと飲みつつ鍋をつつく。土曜日のせいか、大学生の団体が幾つか入っていて、やたらと一気飲みをしていておかしかった。飲み会自体が盛り上がらないからムリヤリ一気をしているのが見え見えで、ちょっと痛々しかったぞ。

ちなみに今夜は北海鍋など。一昨日から三夜連続鍋。秋田は本当に寒かったからやたらと鍋が美味く感じたことを、いまさら認識してみたり。

まだ時間は早かったのだが、僕もいい加減疲れていたので、早めに店を出てさっさと家路に着く。琴錦の優勝をタクシーの車内で知り、運ちゃんとわけの分からない話で盛り上がりつつ、心の中では、「この運ちゃんは、雪山越えで死ぬか生きるかなんて思いは絶対したことないだろうな」などとふと思い、一昨日の夜のあの秋田の運ちゃんの決死の形相を思い出す。

--

近所の酒屋でバーボンを仕入れて帰宅。帰るとほぼ同時に実家から電話。明日ちょいと付き合えとの打診。今日は疲れていて考えたくないので明日また電話してくれと頼んで電話を切る。

バーボン飲みながらニナとじゃれる。眠るころになってようやく自分が家に帰ってきたという実感が湧いてきた。








 

Past/Takeshi Tachibana/Future


Reach Me

(c) T. Tachibana. All Rights Reserved. 無断転載を禁じます。tachiba@gol.com