ふん、面白くない。
別にどうってことないはずなのに、どうしてこうも面倒臭くなってしまうんだ。面白くない、実に。
カイシャに派遣で来てくれている女の子に(これがまたえらいカワイイ娘なのだ)、僕は最近熱を上げている(ニナ公認)のだが、その娘はかなりの本読みなので、僕が書いた小説を読んでもらおうということになった。ここまではメイルでやり取りしているから、何の問題もない。
問題はここからだ。僕が小説を書いたことは、カイシャでは彼女以外誰も知らないことだし、作品が認められたら速攻で作家になりたいという願望を僕が持っていることも彼女しか知らない。しかも僕のカイシャというのは社員10人ちょっとの零細企業だから、オフィスと言っても僕のすぐ脇にシャチョウとブチョウが座っている。要するに、自由に会話ができない状態なのだ。
せっかく小説書いたのだから、手渡す時には出来ればちょいと苦労話の一つでも聞かせてやりたいと思うし、わざわざ読んでくれるという姿勢に感謝も表したいのだが、これが全然できない。くそー。
まだ僕がぺーぺー社員だったりしたなら、もうちょっと気楽なんだろうけれども、現場の責任者が特定の女の子とカイシャの中で何やら秘密めいた話をしているという状況は避けたいし、他の人に僕が小説を書いたなんてことは知られたくないのだよ、部下だの後輩だのに(あ、もちろんシャチョウとブチョウにも知られたくない)。
昼飯にでも誘おうかと思ったけど、わざわざメイルで誘ったり、コンピュータ打ってるところまで行って、「お昼どう?」などとやるのはわざとらしくてどうも嫌だ。熱は上げているが別にどうこうしようという訳でもないので、変に回りくどくしたくないのだが、回りくどくしないことにはまともに会話もできない状態というのが何とも面白くない。おまけに女の子達はみんなで一緒に食事に行ってるらしいから、そこから誘うのも何となく不自然で嫌だ。面白くない。
電話番号もメイルアドレスも知ってるんだから、電話するなりメイルで誘うなり(メイルのやりとりはそれなりにしている)すればいいと思うかも知れないが、それっていかにも「誘ってます」って感じで何だか嫌だ。面白くない。そんなに大袈裟なことではないのだ。2、3分で終わる話なのだ。夜に電話かけて、「どう、明日小説渡すから、一諸にお昼でも」なんて、まるで誘う口実に小説を使ってるみたいじゃないか。あんなに苦労して書いた小説を、モノにする気もない女の子を一人誘う為に使うなんて、ちょいと安すぎないか、というか、安いよな、それじゃ。
彼女がカイシャの人でなければ、何もこんな難しい話にはならないのだ。まったく面白くない。ブツブツ言いながら仕事して、外回りの途中で内田春菊のつまらないエッセイ集読まされてまたブツブツ言って、結局彼女との会話は、「あ、これ」(他の人に見えないようにこっそり差し出す)、「あ、ありがとう」(そのまま机の下にしまう)という、所要時間1秒程度のもの。ブーブー文句言いながら近所の定食屋で一人でカレー食って、不味くてまたブツブツ。あー、面白くない。ふん。
まーね、僕も男だからね、結構密かに彼女とどうにかなることを期待している部分がないと言ったら嘘になるけど、下心を抜きにしても、もうちょっと自然に会話できてもいいじゃないか。どうしてこう面倒な手続きが毎度毎度登場するのだ。ったくもう。
それにしても、最近僕の周りには、やたらとイイオンナが多いな。参ったな、どうも(何を参ってるんだ)。
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宮本輝、「螢川・泥の河」読了。
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