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Walter T. / Walter T. Smith
小さいころ、僕にはひいおばあちゃんがいた。
小さかった僕はひいおばあちゃんと発音できずに「ぴやちゃん」と言っていた。
「ぴやちゃん」という呼び名がいつの間にか渾名になってしまい、家族全員が彼女を「ぴやちゃん」と呼んでいたが、僕は何故彼女が「ぴやちゃん」なのか、ずっと大きくなるまで知らなかった。
ぴやちゃんはいつでも僕の味方で、同盟軍を組んでいた。
お歳暮で家に届いた調味料セットの味の素を全部水に溶く「実験」を執り行うのも、母親が大切にしていたレコードを円盤にして飛ばす競技を開催するのも、常にぴやちゃんの部屋でだった。
ぴやちゃんは僕のことを絶対に叱ることはなかった。
小さい体に質素な和服を着て、寝たり起きたりの生活を送りつつ、殆ど外にも出ないで、毎日僕と遊ぶことを日課としていた。
今から考えれば罰当たりな話しかも知れないが、ぴやちゃんと一緒に、彼女の部屋に置いてあった神棚にマジックペンで落書きしたりもした。もっとも当時は僕は「字の練習」という大義名分を振りかざしていたような気がするけど。
学校から帰ってくると毎日ぴやちゃんにその日あったことを報告した。外に遊びに行って帰ってくるとまたぴやちゃんの部屋に行って誰と何をしたとか、どこに行ったとか話して、おやつをもらったり(いつも黒飴ばかりであんまり嬉しくなかったんだけど)、「実験」にとりかかったりしていた。
夜、僕が風呂に入っていると時々ぴやちゃんは様子を見に来た。僕が一人で髪が洗えるのをいつも褒めてくれた。
ぴやちゃんの食事はいつも梅干し入りのおかゆだった。いつも同じ小さな鍋でばあちゃんがぴやちゃんの分だけ作っていた。何回か食べさせてもらったけどほとんど味がしなくてあまり美味しくなかった。
ずっと後から知ったことだが、ぴやちゃんは若いときから病弱で、30代ぐらいからずっと寝たり起きたりの生活を続けていたらしい。確かに僕の記憶の中でも、ぴやちゃんが外出している姿というのはほんの数回しかない。いつも青白い顔をして、か細い声で話すぴやちゃんの姿が非常に印象に残っている。
ぴやちゃんの87歳の誕生日に、小学生になっていた僕は粘土でプレゼントを作った。プレゼントといってもただ粘土をこねくり回しただけのもので、別に焼き物になっている訳でもないし何かを入れられるようになっている訳でもない。ただこねくり回した塊のようなものをプレゼントした。
それでもぴやちゃんはすごく喜んでくれて、彼女のベッドの脇に飾っておいてくれた。僕も何となく嬉しくてぴやちゃんの部屋に行くのが楽しみだった。
その年の冬になってぴやちゃんは風邪を引いた。
何回かかかりつけの近所のお医者さんが往診にきていたが、ぴやちゃんは熱はあるものの比較的元気そうで、僕が恐る恐る部屋を覗き込むとおいでおいでと僕を呼んで、カンロ飴とか黒飴とか、いつものおやつをくれたりしていた。
その日、僕は何故か朝すごく早く目が覚めて、一人でウルトラマンの再放送を観ていた。いつもばあちゃんが起きてくる時間よりも30分以上早かった。二階で物音がした。ばあちゃんが母を起こす声が聞こえた。スリッパの音がパタパタと響いた。パジャマ姿の母が階段を降りてきた。ばあちゃんも続いて降りてきた。
ぴやちゃんが亡くなった。
ばあちゃんは近所のお医者さんに電話していた。母は僕に今日はいつも通り学校に行くようにと言った。
僕は怖くてぴやちゃんの部屋に近寄ることができなかった。人間が亡くなるということがどういうことなのか、実感がなかったのかも知れない。
ぴやちゃんの部屋を見ないようにして僕は支度をして学校へ行った。
学校から戻ってくると、ぴやちゃんは一階の応接間に寝ていた。僕は怖かったが近づいていった。鼻の穴に詰められた脱脂綿が怖くて、すぐに逃げ出した。
色々な人が次々とやってきて、あっという間に家は葬儀の会場になった。ぴやちゃんはいつの間にか棺に入れられていた。顔が見えなくなって僕は少しだけ安心して、ようやく棺の近くにいられるようになった。
翌々日、ぴやちゃんは焼かれて骨になった。棺が家を出るとき、「最後にもう一度ぴやちゃんにさよならしなさい」とばあちゃんに言われて僕は恐る恐る棺を覗き込んだ。
ぴやちゃんは白と黄色の花に包まれていた。もう鼻の脱脂綿は怖くなかった。ばあちゃんと母が、ぴやちゃんが使っていた扇子や着物を棺に入れていた。ばあちゃんが僕がプレゼントした粘土を持ってきて、「これを入れてあげればぴやちゃん、きっと寂しくないね」と言った。僕は手渡された粘土を棺の中に入れた。棺の蓋が閉じられ、ぴやちゃんは家を出ていった。
火葬場には大きな煙突があって黒い煙が出ていた。煙突のてっぺんには網がついていた。僕は粘土が焼けないで残っているんじゃないかと心配したが、お骨をツボに入れるときには粘土は全然残っていなかったので少し安心した。
ぴやちゃんのお骨は小さくて、どういう訳か茶色や緑に色のついているものもあった。
今日、風呂に入っていて、のぼせた。しわしわになった自分の指を見ていて、急にぴやちゃんのことを思い出した。
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