三浦カズ、44歳。
数少なくなった、僕よりも年上のプロスポーツ選手である。
僕自身と世代が近いこともあるし、Jリーグ発足当時のスーパースターということもあって、カズのことは以前から気になっていた。
そんなカズのエッセイ、「やめないよ」を手に取ってみた。心の芯が熱くなるような、強い本だった。
やめないよ
三浦知良 新潮社 2011-01-14
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カズは日本経済新聞のスポーツ欄に連載記事を書いている。二週間に一度、隔週の連載で、本書はその連載記事5年分をまとめたものだ。新聞でも目に入れば読んでいたが、改めて一冊の本にまとまったものを読むと感慨深い。
39歳、横浜FCをJ1へ
本書がスタートするのは2006年。この年カズはシドニーFCへのレンタル移籍を終え帰国、そして横浜FCで選手兼監督補佐を勤める。
この時カズは39歳。39試合に出場し、チームを初のJ1昇格へと導いた。
この年はチームがJ2で優勝してJ1に昇格するという歓喜の一年だったため、カズの言葉にも勢いがあり、強いメッセージが多い。
「優勝争いに加わるだけではダメだ、やっぱり勝たなければダメだと思い知らされるんだ」
「FWにはそういう強引さも必要なんだ。本能のままにぶっ飛んでいくような無鉄砲さ」
そういった言葉の裏で、今のカズとは異なる側面も覗く。これぞ歴史ということだろうか。
今では徹底的な食事管理をして、専任のフード・コーディネーターを雇っているというカズだが、5年前にはこのようなことを言っている。
「季節にかかわらず、自分が食べたいものを食べるのがいい」
今のカズなら何と言うだろうか。
40歳・不惑の苦悩
J2で優勝を飾り念願のJ1昇格を果たした横浜FCとカズ。
そして2007年2月にカズは40歳を迎える。
40歳の抱負をカズは以下のように述べている。
「『カズ、40歳だけど本当に大丈夫かな』とファンのみんなを心配させつつ、『でもなぜか期待しちゃうんだよな』と思ってもらえるようなミステリアスな部分。それが40代のテーマだね」
だが、昇格したばかりのチームはJ1の壁に立ちはだかられ、勝ち星は延びていかず、チームは苦戦。そしてカズも大きな壁にぶつかる。
「監督交代後も横浜FCは6連敗で、ゴールは1つだけ。その間先発出場してきた僕としては当然、責任を感じている」
そしてチームは残念ながら一年でJ2に降格。翌2008年からカズは、それまでのFWではなく、左MFの位置での起用が多くなり、ポジション変更に従ってゴールシーンも減っていく。
そんななかでもカズはゴールを決めればカズ・ダンスを踊り、ダンスについては「今では照れもある」と書きつつも、ゴールを決めた喜びをストレートに表現する。
明日を目指し諦めない
41歳、42歳と年齢を重ねる中でチームはJ2降格後も停滞し、カズの出番も徐々に減っていく。
チームに貢献できない苛立ちと試合に出たいという強いメッセージが滲み出る中で、カズは冷静に過去の自分について、Jリーグについて、そしてサッカー界について語り続ける。
そして2010年最終戦、43歳のカズは1年5か月ぶりに先発出場を果たしそのままフル出場、さらにゴールも決めて、最年長記録を軒並み塗り替えた。
多くの人が賞賛の拍手を送る中、カズは本書の終わりで本気で悔しがっている。もっと試合に出たいと訴えているのだ。
「戦力だと言われても、あれだけ試合に出られなければ何の戦力なのか分からない」
多くの実績を残しJリーグの伝説とまで言われる男は、今でも本気で前に進もうともがいているのだ。
まとめ
カズは今でもリーグ戦全試合をフル出場したいと本気で願い、それが可能となるだけのトレーニングを積んでいる。
「今月は練習試合で90分間フル出場を続けている。今でも自分がうまくなれる感触がある。余裕ができ、頭も良くなったというか。」
そしてもう一度日本代表のユニフォームを着て試合に出ること、これも狙っている。
カズが経験してきたことと、その経験に基づく多くの明言が本書にはちりばめられている。
だが、僕が本書から一番感銘を受けたのは、カズの絶対に諦めないという姿勢と、何歳になっても、もっと上手くなってみせるという執念であった。
日本人に多くの勇気をくれる素晴らしい本だ。
著者/出版プロデューサー/起業支援コンサルタント/ブロガー/心理カウンセラー。
あまてらす株式会社 代表取締役。
著書に「やってみたらわかった!40代からの「身体」と「心」に本当に良い習慣」「起業メンタル大全」「「好き」と「ネット」を接続すると、あなたに「お金」が降ってくる」「ノマドワーカーという生き方」など全9冊。
神奈川県鎌倉市の海街在住。