Wonderful Tonight / Eric Crapton

先日、会社帰りにニナと待ち合わせしていたJRの駅でのこと。

僕は予定よりも随分早く駅についてしまい、改札口から離れたところでニナを待っていた。その日僕はかなり早く仕事を切り上げることに成功していたので、駅は帰宅する人々のラッシュで随分混みあっていた。

自動改札機がずらりと並ぶ改札口のすぐ脇に、高校生の男女が立ち話をしていたのを、僕はちょっと離れたところからずっと眺めていた。

男の子は背中に大きなプリントの入ったジャンパーにだぶだぶのジーンズ、女の子は短いスカートのセーラー服にルーズソックスという格好。女の子は特に髪も茶色ではないし、化粧をしている訳でもない、ごく普通の高校生という感じだ。男の子の方も髪こそは茶色だけれど、それほどスレた感じではない、その辺にいる高校生といったところ。

二人の話の内容は聞こえないが、仕草や物腰から、どうやら男の子が女の子を口説いているらしい。女の子の方はまんざらでもない様子だが、いまいち決心がつかない、と言った感じ。

時折男の子の掌が女の子の手に触れる。あるいはふざけて殴り合うマネをして、一瞬手をつないでみる。男の子が女の子の腰に手を回す、女の子がサッと体を引く。また二人で見つめあいながら話をする、ふざけて体をほんの少しだけ触れあう。そんなことを二人はニナが来るまでの20分以上ずっと駅の改札のすぐ横で繰り返していた。

最初僕はぼんやりと二人の姿を眺めていて、こんな人込みでぐずぐずしてないで、さっさと二人きりになれる場所に行けばいいのに、などと考えていたのだが、二人が無邪気に笑ったり頬を赤くしたりしているのを眺めているうちに、突然何とも懐かしい気持ちになってきた。

高校生の彼らには時間は売っても余るほどあるのだ。金も地位も車もなくても、彼らには時間だけはたっぷりあるのだ。僕は毎日時間に追われて生活していて、腐るほど時間が余っているという生活のことなんてすっかり忘れてしまっていたが、僕だってつい3年ぐらい前までは彼らと似たような生活をしていたのだ。

イタリア料理も、薄暗いバーも、ちょっとオシャレなホテルも、彼等には必要ないのかも知れない。彼らは今改札の横でああしてぐずぐずと時間を費やしながら、最高の時間を過ごしているんだろう。結局僕が「時間の無駄」だと感じたのは、僕自身にあまり余裕がないだけのことで、彼らの姿に無意識のうちに嫉妬していたのかも知れない。

改札を通り抜けて僕の側にやってきたニナには、嫉妬のことは黙っていた。

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