あなたの温もり 思うこと  不明編



1997年11月25日(火)


Rhythm / UA


僕はネコが好きだ。

子供の頃から犬よりもウサギよりも手乗り文鳥よりもザリガニよりもネコが好きだった。どうしてネコが好きなのかということを深く詮索しても仕方がないだろう。外見といい鳴き声といい肉球といいピンと伸びた尻尾といい、何からなにまで好きなのだから、もうどうしようもない。僕がおっぱいが小さい女の子を好むのと同じぐらい、本能的なものなのだ、きっと←ホントか。

僕の家はずっとばあちゃんがぜんそく持ちだということで小さいころからペットを飼うことができなかったので、いつもネコを飼っている友達の家に遊びにいくたびに羨ましく思っていたっけ。

ところが3年程前のある日、突然母が生まれたばかりの、まだ掌に乗るような子猫を貰ってきた。アメリカンショートヘアーの血が4分の1入ったトラネコである。僕と弟は狂喜乱舞しながらシュミットだのローレンスだのヘンリーだのジムモリソンだのてんで勝手な名前で呼んでいたのだが、母が独断でクリと名付けてしまった。まあ、彼(ネコ)の面倒を見るのが母なので仕方がない。栗色の毛をしているからクリ、なんて安直なんだろうと呆れたが、悪い名前でもないので僕も弟も妥協して表向きはクリと呼び、心の中でこっそりヘンリーだのシュミットだのと呼ぶことにした。

クリはすくすくと育ち、一度もいい思いをする前に虚勢手術を施され、ぺちゃんこになった玉袋の名残を揺らしながら日々家の中を闊歩するようになった。最初は片手の掌にちょこんと乗っかる程小さかったのが、アッという間に両手で抱きかかえなければならない程大きくなった。ぜんそく持ちのはずのばあちゃんも、全然平気な顔をしてクリを抱いたり猫じゃらしで遊んだりしていた。その光景を眺めていると僕はずっと騙されていたのだ、というやり場のない怒りが込み上げてきて、うわああと意味不明に叫びつつ、クリの頭をグリグリとなで回さずにはいられないのだった。

クリは生後3週間で親から離されて、ウチにやってきてしまったので、自分がネコであるという認識があまりなく、どうやら自分は人間だと思っているらしい。だからという訳ではないのかも知れないが、クリは人間を全く恐がらない。郵便配達や新聞配達の人達がやってくると尻尾をピンと立て、ぴくぴくと震わせながら全身で愛情表現をして、彼らの足元に擦り寄っていき、ちょっと撫でられたりしようものなら、アスファルトの上にゴロンとひっくり返るというパフォーマンスまで披露してくれるものだから、たちまち近所の人気者になった。

普通ネコは冷たい動物だと言うのが定説になっているが、クリにはそれはあまり当てはまらない。僕が仕事から帰ってくると毎晩ちゃんと玄関まで出迎えるし、朝僕が会社に行くときには毎朝私道の出口までピョンピョン跳ねながらついてきて、ニャーと鳴いてくれた。

クリはネコのくせに朝型の生活パターンを頑なに守っていて、毎朝僕よりも早く目を覚ますと、僕の耳元にやってきて、外に出してくれー、と言わんばかりにニャーニャー鳴くのである。好みの問題かも知れないが、僕は目覚まし時計に起こされるよりは、ネコのヒゲがちくちく当たって起こされる方がずっと目覚めが良かった。

僕は今年の初めに実家を出て独り暮らしを始めてしまったので、それ以来はクリに会えるのも一カ月に一度程度になってしまったが、相変わらず僕の足音を憶えていてくれていて、僕がドアを開けるとちょこんと座っていて、ニャーと言ってくれる。僕はクリのその姿を見るために実家に帰っていると言っても過言ではない。

今日、営業で蒲田方面を歩いていて、クリにちょっと似たネコとすれ違い、すごくクリに会いたくなってしまったので、こんなものをつらつらと書いてしまった。

うーむ、次の週末にはスルメを土産にちょろっと会いにいってこようかな。何だか遠距離恋愛するアツアツのカップルのようだな。




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